2-4. 毒性——未適合者への作用

トリフォスの危険性は「特別な毒物」ではないことにある。それはごく普通に大気に溶け込み、呼吸とともに肺胞から血中に入り、細胞膜を透過してミトコンドリアに到達する。

そこで何が起きるか。

トリフォスのリン酸類似化合物は、ATPを合成するために使われるATP合成酵素の活性部位に結合する。ATPとよく似た構造を持ちながら、実際にはATP合成を進めることができない——競合阻害と呼ばれる現象だ。

【未適合者の細胞内で起きること】

トリフォス粒子が細胞内に侵入
    ↓
ミトコンドリアに到達
    ↓
ATP合成酵素の活性部位に結合
    ↓(競合阻害)
本来のATP合成が停止
    ↓
細胞エネルギーが枯渇
    ↓
呼吸筋・心筋から順に機能不全
    ↓
呼吸停止・心停止

【結果:死亡】

特に呼吸筋と心筋が先に機能不全に陥るのは、これらが継続的かつ高頻度でATPを消費しているためだ。エネルギー枯渇が最初に出現する臓器が、生存に最も直結する臓器でもある。

濃度別致死時間の目安

濃度(a.u.) 地域の例 未適合者への影響
1.0〜1.2 深海沈み込み帯 即座に致命的
0.6〜0.9 山脈・温泉帯 数分で致命的
0.4〜0.6 河川・地下水 数十分で致命的
0.2〜0.4 平野・農耕地 数時間で致命的
0.1〜0.3 砂漠 数時間で致命的
0.05〜0.1 極北 昏睡状態でも生命維持可能

唯一の例外は極北地域だ。ここだけは濃度が限りなく低く、未適合者でも一時的な昏睡状態に留まり、生命維持が可能な水準にある。アイテロミトス適合試験の失敗例や危険な被験者を保護するための緊急冷凍睡眠施設が極北に設置されているのは、この地理的特性による。